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床屋 2004/01/29(木)
すごく久しぶりに、床屋さんに行ってきました。
このように書いた場合 A:普段は美容室でカリスマ美容師にカットを頼んでいるが 今日はたまたま、床屋ですませた。 B:普段から頭は床屋ですませているが それも数ヶ月に一度しかいかないものぐさだ。 という二通りが考えられるわけですが 私の場合は一体どちらなのかという判断につきましては 読者庶賢の判断に委ねたいと思います。(Bです) ご自由にご想像下さって結構です。(Bです) あえて皆様のご想像にまかせることで(Bです) 「あぁ、犬司さんって…すごく神秘的な方ですのね♪(Bだけど)」 みたいな、甘く切ない恋心でも抱いていただければ もう少し頻繁に床屋さんにも通おうとおいうものですよ。 本当にBでごめんなさい。
というわけで、およそ2ヶ月ぶりに 行き付けの床屋さんにいってきたのです。 2ヶ月ぶりのくせに、行き付けもくそもないとは思いますが 少なくとも、私のほうは川崎に引っ越してからこのかた ずっとその床屋に通っているわけです。 こう見えても、根は「いちず」ですから。 思えば、「医者と床屋はかかりつけに限る」というのが 死んだ親父の遺言でした。(生きてますが) ちなみに、2ヶ月ぶりくらいでしか行かなくとも 店員さんは結構こっちの顔を覚えていてくれるようでして いかにも「またアノ客がきたよ」という感じの 半笑いで愛想笑いという実に器用な表情をみせてくれます。 接客業に要求される最低限度の愛想笑いを ぎりぎりいっぱい半笑いで繰り出さすのですから これは相当な技術です。 床屋の店員にしておくのはもったいないので 首にすればいいと思います。あんなヤツ。(暴言)
そして私がイスに座ると 例の「今日はどのように致しますか?」という決り文句を さりげなく投げやりに言い放つから素敵です。 もちろん私は、この10年間、髪型なぞ変えたことはないので どのようにするもなにも 「元通りにして下さい。」 と頼むほかないわけです。 すると店員さんも 「えっ、この頭をですか?」 なんて危うく口にしそうになるのをグッとこらえて 「え、えぇと、この間はどのような髪型にされたんでしたっけ…」 などと言いつつ もはや原型をとどめていない私の無造作ヘアー というより無法地帯ヘアーを、困った表情で眺めるわけです。 そして、ようやく 棚に整理されてるカルテのようなものを持ち出してきて 私の来店記録みたいなものを調べるわけですが だったら最初からそうしろというものです。えぇいややこしい。 そしてカルテを調べると、前回(というより毎回) 両サイドの髪を5ミリほどのブロックにしている事実を発見し 目の前の現実とのギャップにしばし呆然とするわけです。 まぁ、5ミリくらいまで短く刈りこんだ髪が 指でクルクルできるほど伸びていれば 一般人であれば原型をとどめていないと評価するでしょう。 しかぁし。 彼らはプロの理容師ですからね。 この程度の伸び放題で原型を洞察できぬようでは、まだまだ甘いです。 料金も半額くらいしか払えませんよ。ほんと。 ところがどっこい、店員さんの表情を見てみると 「これだけ伸ばし放題にされたら、倍くらいもらわないと割に合わん!」 という意気込みがひしひしと伝わってくるから不思議です。 こうして、天と地ほどの開きのある価格差が 神の見えざる手によって、ちょうど定価くらいのあたりで合意されるのが 市場経済というものですね。 あら、ためになるコラムだこと。
まぁ、そうこうしているうちにも 手際よく、つつがなくカットが終わるところをみると この理容師もまんざら腕が悪いわけではないようです。 不思議とそういう風に思えてくるあたりが 神様の見えざる手口ってヤツかもしれませんね。まんまとやられました。 で、カットが終わりますと、今度はシャンプーが始まるわけです。 私がいったことのある床屋さんは たいてい、正面の鏡の下から、頭を洗うシャワーと洗面台が 忍者屋敷のようにワンタッチで出てくる仕掛けになっておりまして 子供のころなどは、無駄にああいう仕掛けに憧れたものですが 今はもう、大人ですから。 あの程度の仕掛けに目を輝かせたりはしません。 (ちょっと胸がドキドキする程度です。)
で、ぢつを言うと、ここからが非常に問題なのです。
シャワーのセッティングが整うと、店員さんが 「それでは前の方にお願いします。」とか言うんだと思います。 そして、イスの前のほうに出てきて、そのまま前に上体を倒して 洗面台の上に頭を持っていくわけですが この態勢を長時間続けると、足がプルプルしてきませんか? 私だけですかねぇ。すごくプルプルするんですよ。 イスに腰掛けて前かがみにお辞儀して その状態で上から両手でワシュワシュとシャンプーされれば それに抵抗すべく背筋がフル稼働するわけですよね。 で、その背筋を支える起点となる腰が イスの前方の不安定な位置に浅く腰掛けているため からだ全体のバランスをとるべく、両足を踏ん張る必要があると思います。 この時の足のポジショニングが、非常に難しいのですよ。 …って思ってるのは私だけですか? 大丈夫かな。みんなついてきてるかな。 だいたい、床屋さんのイスって、回転したり上下したりするから 足を乗せる台が、イスと一体になってるじゃないですか。 だから、足をのせるスペースが限られてるんですよ。 そのせまい足場の中で、素早くベストポジションを探り出さねば すぐにでも店員さんのシャンプー攻撃がはじまるわけです。 店員さんが「前の方にお願いします」と言ってから 私がずりずりとイスの上を移動して、いざシャンプーが始まるまでの ほんの数秒間。 このわずか数秒間のポジショニング争いが 床屋の醍醐味でもあると思います。 (ここんとこ連敗続きで、いつもプルプルです。) 手を洗面台につけたら、すごく楽だろうなぁという想像はつくのですが なんとなく「ハンド」っぽくてダメですよね。 床屋さんのシャンプーって、なんかそういう雰囲気があります。 手は使っちゃダメみたいな。 だから、ひじを腿の上あたりにがっしり据えて上体を支えるのですが 今度はこのひじのポジショニングが重要。 前過ぎると、上体が不自然に前かがみすぎて店員に注意されるし 後ろ過ぎると、ほとんど支えにならないから背筋がつらい。 かといってベストポジションをさぐりつつもぞもぞ動くとみっともない。 やはり、ひじについても 一発でビシッとベストポジションまで持っていきたいですよね。 ちなみに、両手両足ともに、ベストポジションを決められたときは それこそ、何時間でもシャンプーに耐えられそうな気持ちになります。 「あぁ、今私は、神の見えざる手に支えられている…」 なるほど、ここにも、見えざる手口が介入しているようです。 神様は無駄なことに万能ですね。(失言) かといって、自力でベストポジションを模索すべく 家でイメージトレーニングをするのもどうかと思うし しかし2ヶ月に一度の床屋だけは技術の上達は臨めないし… というジレンマに陥るわけです。 床屋って…奥が深い…。(深くないです) このように懊悩しつつ 「あぁ、今日も上手くいかなかった」 なんて足をプルプルさせているところに、例のお決まりの 「痒いところはありませんかぁ〜」 という質問は、あれはむしろ床屋の確信犯だと思います。 それなら、全てが始まる前に聞くべきです。 「シャンプー中に掻いておきたい場所はありますか?」と。 これをかわいらしい女性の理容師さんに聞かれたりしたら 「もう、じぇんじぇん平気でしゅっ!」って元気よく答えられると思います。 結果的には一緒ですが、精神的にはだいぶ違います。 このように、実に悲しむべきことですが 人類は、床屋のシャンプー時における 「痒いところはありませんか〜?」という軽薄な質問を いまだに克服できずにいると思います。 願わくは、この21世紀が 人類にとって「痒いところはありませんか?」を克服し 進化の歴史にあらたなる飛躍をもたらす100年となりますように…。 キーワードは 「両手両足のポジショニング」と「かわいらしい女性理容師」だと思います。
というわけで。まぁ、あれです。 29にもなって床屋のシャンプー一つで悩める人間が 少なくとも世の中に一人は存在すると言う事実が 皆様の人生の励みになれば幸いだと思います。 比較的いつもどおりの駄文でした。 むしろ、より一層のレベル低下が確認できたとおもいます。 おぉ、まだ落ちるべき余地が残されていたのかと 驚きをかくせませんね。もう、うんざりです。われながら。
ちなみに、ココまで書いてきて恐縮ですが ほんとうは「顔ぞリ」の話しが書きたかったことに、いまきがつきました。 次回、かきます。 ではでは、ごきげんよ。 犬司でした。
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(毎度お手数ですが、連載物です。前号コラムからお読みください。)
さてさて。 蟹、蜂、栗、それに臼という大変奇妙なとりあわせの4人ぐみは ようやく、山田さんちの前までたどりつきました。 すると、ちょうど裏山に出かけようとしていた猿と 玄関前ででくわしてしまいました。
「あっ、お前…こないだの蟹!」
蟹はいきなりの展開にうろたえました。 まさか、まさか目当ての猿とこんなところで出くわそうとは! まずい、なんの準備もできてないよ。 栗は囲炉裏の中に隠れていないし 蜂は水がめの中に待機してないし 臼にいたってはどうやって天井裏に持ち上げるか 考えてすらいませんでした。 全く準備を整えていない玄関先で いきなり宿敵との決戦を強いられた蟹でしたが しかし、もはやこれまでと腹をくくって言いました。
「やいっ!このボクを野良呼ばわりした、にっくき猿め! 今日はこの心強い仲間達と力をあわせて 必ずや君をこらしめてやるから、そう思え!」
ビシッと、右手のハサミをつきつけて言い放ちました。 燃えるような目で、猿を真っ直ぐ睨みつけました。 しかし、猿は全く不思議そうな顔で聞き返しました。
「えと…君の心強い仲間って…、そこの栗のこと?」
猿は、臼のくぼみの底で心地よさげに転がっている栗を指しました。 蟹は慌てて後ろの栗を振り向いて言いました。
「ちょ、ちょっと…大事な場面なんだからしゃきっとしててよ。栗さん。 それに、えっとね。えっとね。 この栗さんだけじゃないぞ!あの蜂さんだって仲間なんだから!」
まるで他人のフリをしながら近くを飛んでいる蜂を指差しました。 蜂は一瞬ドキッとして「余計なこと言うなよ!」という表情でした。 猿は半ば呆れ顔で言いました。
「つまり、ミツバチとイガグリを仲間にして、僕を懲らしめにきたわけ?」
「そ、それと、この臼さんも仲間だもん!」
「うんうんうぅぅ〜ん♪」
猿は、本気であきれ果てて言いました。
「わかった、わかった。よかったね。お友達がいっぱいできて。 とにかく、俺は今、キー子ちゃんに会いに行くから 君たちと遊んでる暇はないの。それじゃぁね。ばいばい。」
猿はあっさりと言い残して、そそくさと裏山に向かって歩きだしました。 蟹はあわてて呼びとめました。
「ま、まてぇぇぇい!ぼ、僕達に恐れをなして逃げ出そうって そうはいかないぞ! ようし、そっちがその気なら、君のいないうちに家に入って 囲炉裏や水がめや天井裏に隠れて 君の帰りを待ち伏せしてやるからなぁ!覚悟しておけぇ!」
有史以来、『待ち伏せをするから覚悟しておけ』という宣戦布告は ついぞ聞いたことがない画期的な出来事でした。 それは『正々堂々』とか『敵に塩を送る』といった悠長なものではなく もはや『歴史的素っ頓狂』と呼ぶにふさわしい暴挙でした。 さすがにあきれ果てた猿は
「はいはい。どうぞご勝手に。 ちなみに玄関はオートロックだし 床暖房だから囲炉裏もないけどね。」
そう言い捨てると、振り向きもせずに歩き出しました。 蟹は口から泡を噴出さんばかりにあたふたして言いました。
「ちょ、ちょっと、まてぇぇぃ!卑怯だぞ!逃げる気か! オートロックとか床暖房とか、卑怯だぞぉぉ!むきぃぃぃ! 返せ!ひき返して、いざ、尋常に勝負しろぉぉ!」
もはや蟹の言い分は支離滅裂でした。 少なくとも、オートロックと床暖房を卑怯と呼ぶのは 単なる言いがかり以外のなにものでもありません。 もちろん猿は、そんな蟹の言い分を一顧だにしませんでした。
すると栗は、臼に耳打ちして 臼を玄関のまん前にどっしりと座りこませました。 そして、錯乱する蟹の肩をぽんぽんとたたいて 「私にまかせなさい」と早口で耳打ちすると 去り行く猿の背に向かって、こう、いいました。
「あ〜、こらこら。猿よ。まぁ聞きなさい。 君が我々を相手にしないというのなら、よろしい。 我々もこの臼を玄関前に放置して、さっさと撤収するから。」
猿は一瞬ギョッとして振り返りました。 いやいやと身をよじりつつ「すんすん」抗議の声をあげる臼を無視して 栗はさらに言いました。
「君が玄関を出たちょうどそのあとに こんな大きな臼がドアの前に放置されていたら 山田のさんご夫妻はさぞかし困るだろうね。 『あら、これではドアが開けられないわ。 一体どこのいたずら小僧の仕業かしら』 そして、ふと台所をみると どこかのいたずら小僧が、さっき盗み食いした蜂蜜のビンが ふたを開けたまま放置されているのさ。 そこへ、窓の隙間から忍び込んだミツバチが それも佐藤養蜂場の数千匹のミツバチが ブンブン唸り声を上げて群がってきたりしたら それはもう、山田さんご夫妻をさぞかし震えあがらせるだろうね。」
猿は、しばし呆然として聞いていましたが やおら、大きな声で反論しました。
「き、汚いぞ!そ、そんなの、俺の仕業じゃない! だいたい、俺は蜂蜜を盗み食いなどしていない! いい加減なことを言うな!」
栗は平然と言い返しました。
「あぁ、そうさ。その通り。 でもね、問題は『君の仕業か否か』ではなくて 『山田さんご夫妻が君の仕業と思うか否か』なんだよ。 ちなみに、蜂蜜のビンのふたのことは心配要らない。 これから、この蟹君が窓の隙間から忍びこんで 自慢のハサミでこじ開けるだけさ。 その間に、蜂君が仲間をどっさりつれてくるよ。 なぁに、5分とかからない。」
猿は見る見る顔を真っ赤に染めていきました。 (お尻は最初から真っ赤でした。) ギリリッと歯軋りする音が聞こえました。 そして、うめくよに、搾り出すように、こう言いました。
「お、お前ら…くそっ!汚いマネしやがって… 一体何の権利があって、そんなことができるってんだ。 こ、こんなことして、許されると思うなよ! 絶対、絶対に許さないからな!」
栗は、表情一つ変えずに言いました。
「あぁ、そうだね。僕らには何の権利もないだろうね。 ただね。 ちょうど君が、この蟹君のことを 『野良蟹』呼ばわりして食べようとしたときも 蟹は、全くおんなじ事を君に言ったはずだよ。 何の権利があるんだ!絶対に許さないぞ!…ってね。」
しばしの沈黙の後… 猿はがっくりと肩を落として、消え入りそうな声でつぶやきました。
「…わかったよ。君らの、言い分を、聞こう。」
勝負ありました。 手段はともあれ、見事な逆転勝利でした。 蜂は、「ほほぅ、ちょいと見なおしたよ」とつぶやきつつ 栗と蟹の頭上を、羽音を高々と鳴り響かせて飛び回りました。 その羽音は、まるで祝砲のようでした。 臼は、なんだか訳が分からないけど みんなの役に立てたことが嬉しくて「うん♪うん♪」はしゃぎました。 とっても誇らしげでした。 そしてみんながイイというまでは 玄関前からテコでも動くもんかと心に決めました。 そして栗は… 「あとは、君の出番だよ。」と 蟹の肩を優しくたたいて、すぅっと後ろに引き下がりました。 あとに残された蟹は、うなだれる猿を見つめて すこし困惑しながらも、こう、切りだしました。
「え、えぇと… あのね。ボクは、やっぱり野良じゃないんだ。 でもね、あのね。君がボクを野良呼ばわりしたのは そんなことは、もう、どうでもいいんだ。 人に飼われている君からみたら、ぼくは野良だろうからね。 それは、君にとっては意味のある言葉でも ボクにとっては、本来全く意味のない言葉なんだ。 ボクが気にしたほうが、多分間違ってるんだ。 そう、蜂さんに教わったよ。」
しばらく言葉を切って、ちょっと考えてから、こう、言いました。
「それと、君のことを 『人に飼育されている分際で!』なんて思ったのは 多分、ボクの思いあがりなんだ。 君だって、一方的に山田さんに支配されているわけじゃないだろうし それは、蜂さんだっておんなじなんだ。 みんな、生きている状況が違うだけで ちゃんと自由に生きているんだよね。 ボクだけが自由だなんて言うのは、ボクの思いあがりなんだよ。 この臼君なんて、誰かの持ち物になって使ってもらえなければ 本来の自分でいることすらできないんだからね。」
臼は「うんうん♪」とにこやかにうなずきました。
「ただね。ボクは、この栗さんとは違って おとなしく食材として食べられてしまうのはイヤなんだ。 ボクは栗さんと違って、食べられちゃったら、それでおしまいなんだ。 それでも、いつかは誰かに食べられちゃうかもしれないよ。 でもね、でもね。 少なくとも、猿さん。 君は、なにもボクを食べなくたって 山田さんからちゃんとご飯を食べさせてもらえるんだろ。 ボクを食べなくたって生きていけるじゃないか。 例えば裏山の猿たちは、食べ物がとれなければ死んでしまうから そういう猿に食べられるのなら、なんとなく、納得がいくんだ。 でも、君は違う。だから、ボクを食べようとしないでほしいんだ。」
蟹は、だいたい言いたいことはしゃべり終えたという顔で 蜂と臼と栗の方を振りかえりました。 蜂だけは、ちょっと物足りないような表情で、こう、言いました。
「なんか、あれだな。 せっかくここまで猿を追い詰めたのに… せっかくだから、ほら。 なんかもっと厳しい要求を突きつけたっていいんじゃない?」
しかし蟹は、首を振りました。
「うぅん。いいんだ。 だって、どちらかと言うと、ボクが勝手にかぁっとなったのが原因だしね。 でも…。あっ、そうだ。 そしたらさぁ。お猿さん。 この臼君を、山田さんちで使ってもらってよ。ね。」
すると猿は、すごく困った顔でいいました。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ。 さすがにそれは、俺の一存では決められないよ。 だってそんな… だいたいウチは床暖房でオートロックなんだぞ。 それをいまさら臼だなんて…」
すかさず蜂が横槍をいれました。
「それなら話しは振り出しだ。 蟹君、蜂蜜のビンをこじ開けてきなよ。 おれは仲間を呼び集めてくるから。」
あっさり言い残して養蜂場へと飛び去ろうとすると あわてて猿が呼びとめました。
「分かった。わかったよ。俺の負けだ。要求を飲むよ。 要するにウチにこの臼を置いておけばいいんだろ。 幸い物置は広く開いてるし。」
栗はちゃんと念を押しました。
「置いておくだけじゃダメだ。ちゃんと使うんだよ。 正月にはちゃんと餅つきをするんだぞ。」
猿はもはや全て観念しました。
「分かった。ちゃんと毎年餅つきするよ。」
臼は小躍りしてはしゃぎました。 「うん、うん、うぅぅぅ〜ん♪」 それを見て、蟹はたまらなくうれしい気持ちになりました。 そして、蜂と栗を振りかえって、こう、言いました。
「あのさ。二人にも、なにかお礼がしたいんだけど…」
蜂は、照れくさそうに 「よせやい。俺はそういうガラじゃないよ」と言い残して あっさり飛んでいってしまいました。 栗は、穏やかにうなずきながら、こう、言いました。
「私はね、最初から決めていたよ。 この猿が柿の種を植えたその隣に、私を埋めてほしい。 そして、君と、君の子供や孫達で ずっとずっと私のことを育ててほしいんだ。 何年かして木になって栗の実をつけたら 栗の実を混ぜて、餅つきをしておくれよ。 まぁ、先のことはともかく、しばらくの間は… 君と猿は、二人仲良く、柿と栗を育てるんだ。」
蟹は、目をキラキラ輝かせて 「必ずそうするよ!」と固く約束し 猿は、ほとんど投げやりな調子で 「勝手にしろ!」と言い捨てながらも 数年後の、柿と栗の味には はやくも心が揺れ動いているようでした。
こうして、猿と蟹の合戦のお話は ようやく、おわりを告げましたとさ。 めでたし。めでたし。
猿蟹合戦:第4話 『終戦および和平会談』 完
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(お手数ですが、前号コラムを先に読んでください。)
さてさて。 蟹、蜂、栗という、奇妙な取り合わせの3人組は いざ、猿をこらしめようと、山田さんちへと歩いておりました。 すると道端に、大きな臼がぼつんとおいてありました。 臼はとってもさびしそうでした。 やさしい蟹は、さっそく臼に話しかけてあげました。
「ねぇねぇ臼さん。こんな道端に一人で座っているなんて いったいどうしたの?」
しかし、臼はじっと押し黙ったまま、うんともすんとも答えませんでした。 微妙に気まずい沈黙が流れました。 こらえきれずに、蟹はもう一度たずねました。
「ねぇねぇ臼さん。こんなところで、一体何をしているの?」
しかし、やはり臼はうんともすんとも答えませんでした。 すると、栗がしたり顔で言いました。
「きっと…あれだよ。ほら。いくら昔話だからってさ さすがに口のない臼がしゃべるのは、やりすぎだろうって そういう作者の判断なんじゃない?」
それを本来口のない栗が、微塵のためらいもなく言い出すあたりに 見上げた図太さを感じました。 それでも、やさしい蟹はもう一度臼に話しかけました。
「ねぇねぇ、臼さん。作者の意図なんか気にすることないよ。 昔話の世界では、どんなむちゃくちゃだってまかり通るんだから。ね。 臼さん。いったいどうしたのかしゃべっておくれよ。」
それでも臼は、うんともすんとも言いません。 しびれを切らして、ミツバチはついに確信にふれました。
「なぁ、みんな。こいつ、ひょっとして…ただの臼なんじゃねぇ?」
……… それは、最初に臼にしゃべりかけた瞬間から 誰もがうすうすは気がつきながらも、目をそむけていた事実でした。 『最後は臼が味方になってくれる』 そんな自信に裏打ちされていたからこそ 蟹、蜂、栗という非力な3人で、猿を相手に合戦を挑んだのに…。 しばしの沈黙のあと、栗が遠くを見る目で言いました。
「そうか。今回は…臼、なしか。」
それは本来、言ってはならない事実でした。 「今年の47士は返り討ち」くらいの禁句でした。 めずらしく、蜂が動揺を隠しきれない表情で言いました。
「な、なぁ。今回、やめない?」
しかし、栗はきっぱりと言いました。
「いや、さすがにそういうわけにはいかんよ。読者も見てるし。 しかし、このまま合戦をしても犬死だし… よしっ、そうだ!こうしよう。 いいかい、蟹君。残念ながら今回は、君一人で猿蟹合戦してくれ。 無論、討ち死にしてくれてかまわない。 せいぜい華々しく散ってくれ。 大丈夫、安心しろ。 来年、我々がちゃんと、『猿蟹弔い合戦』をやってやるから。 な。君の死は、無駄にはしない。」
「ちょ、ちょっと待ってよ!勝手なこと言わないでよ! さっきから聞いてれば、『今回は…』とか『臼なし』とか なんのことだかチンプンカンプンだよ!」
確かに、幼い蟹には全く理解できないことばかりでした。 栗はもう一度、諭すようにいいました。
「だからさ。とにかくこの臼じゃダメなんだ。 いくらしゃべりかけても仲間にはならないよ。 さぁ。今回は臼なしで残念だけど、さっさと猿と合戦しよう。 あんまりもたもたしてると 『犬司は結末も決めずに書き始めたんじゃないか』とか いらぬ誤解を読者の皆様に抱かせることになるから。 な。そうならないうちに こんなただの臼は放っておいて、さっさと行くよ!」
しかし、蟹は猛然と言い返しました。
「そんなのかわいそうじゃないか! そんな、仲間だとかそういうことじゃなくて こんなところでひとりぽっちの臼さんがかわいそうじゃないか。 それをよってたかって、ただの臼だの、放っておこうだの みんなひどいよ! ねぇ、臼さん。ぼくはちゃんと分かってるからね。 臼さんは、ぼくの言うこと、ちゃんと分かるんだよね?」
するとどうでしょう。 臼は、大きく前後に揺れ動きながら、大きな声で返事をしました。
「うん♪」
「っておい。しゃべれんのかよ!!」(3人同時で)
うっかり蟹まで一緒になってつっこんでしまいました。 あわてて蟹はしゃべりかけました。
「あっ、ごめんごめん。やっぱりしゃべれるんだね。 びっくりした。(どっから声を出してるんだろ?) それじゃぁさ。臼さん。こんなところで、いったいどうしたの?」
しかし、臼はこんどは押し黙ってしまいました。 蟹は首をかしげて、聞きました。
「……あれ?どうしたの、臼さん。 ぼくの言うこと、分かってる?」
「うん♪」
「それじゃぁ、なんで答えてくれないの?」
「………」
臼はふたたび押し黙ってしまい 蟹は、何がなんだかわからなくなりました。 今度はミツバチが聞きました。
「臼よ。お前さん、しゃべれるのか?」
すると、臼は左右に揺れ動きながら、返事をしました。
「すん」
……… こんな返事ははじめてです。 蜂も蟹も、小首をかしげて困っていると 栗が、なんとなく分かったという表情で口を挟みました。
「つまり…多分、あれだな。 臼よ。今君が言った「すん」はつまり「いいえ」という意味だね?」
「うん♪うん♪」
ようやく通じたという感じで 臼はすごく元気良く前後にぴょこぴょこ揺れ動きました。 栗は言いました。
「なるほど、わかったよ。 この臼は、僕らの言うことはちゃんと理解できるけど イエス、ノーでしか答えられないんだ。 要するに、「うん」とか「すん」しか言えないんだよ。」
非常に難儀な臼でした。 ふと、ミツバチはひらめきました。
「ねぇねぇ。この臼にさ。 うんとかすんとか言え!って言ったら いったいどっちで答えるんだろ?」
すると栗が落ち着いて答えました。
「なんか微妙にパラドックスっぽいけど 普通に「うん」と答えれば問題ないだろ。」
以外にあっけない結論でした。 しかし、ひょっとすると微妙な問題っぽいので これ以上、読者の追及を避けるべく、ミツバチはさっさと話題を変えました。
「そういえば、君、どっかで見たことあると思ってたら… ウチの隣の鈴木さんちの臼だよね。」
「うん♪」
臼は元気良く答えました。
「だとすると…捨てられたの?」
「すんすんすんッ!!!」
今度はぶいんぶいん体を揺らして否定しました。
「あれ?確かこのあいだ、鈴木さんちって引っ越していったよね。」
「うん…」
今度はすこしうつむき加減で肯定しました。 面白そうに、栗が口を挟みました。
「なんだか、だいぶ微妙な表現ができるじゃん。 まぁ、ようするにあれだよ。 引越しの時に邪魔で捨てられたんだろ?」
「すんすんすんッ!!!すんッ!!」
今にも踊りかかりそうな剣幕で、激しく否定しました。 さすがに栗はびっくりしてこそこそイガに隠れました。 やさしい蟹は、臼をなだめていいました。
「そ、そんなことないよね。臼さん。 栗さんがひどいことゆってごめんね。 捨てられたんじゃなくて、なんか理由があって… え、えぇと…置いていかれたの?」
「すんすんッ!!」
またしても臼は否定しました。 ふと、ミツバチは思い出しました。
「あっ、そうだ。俺、見たよ。 引越しの時に、トラックにちゃんとつまれてたよ。この臼。」
「うんうんうぅぅ〜ん♪」
今度は頬ずりせんばかりの勢いで、うなずきました。 ちゃんとトラックに乗って引越たのに、なぜか今、道端にいる。 蟹はしきりに首をかしげていると またしても、栗がイガのなかから出てきて聞きました。
「引越しの時、君は、トラックの上の方に詰まれていたんだね?」
「う、うん。」
きょとんとして、臼はうなずきました。
「で、君がゴロンって落っこちたわけだね?」
「うん。」
ちょっと寂しそうにうなずきました。
「そのとき、鈴木さんちの家族は 君が落ちたことに気がついたのかい?」
「う…す…うぅぅ…うすん。」
非常に微妙な表現でした。 つまり、この臼はちゃんと引越しの時にトラックにつまれたものの わざと落っこちてしまいそうな位置につまれ ドスンッと落ちたときに家族はみんな振り向いたものの 気がつかないフリをしてそのまま走り去ってしまったということらしい。 栗は、厳かに宣告しました。
「要するに、不法投棄。」
「すんすんすんすぅぅぅぅ〜ん」
臼はせいいっぱい否定しましたが 自分が捨てられた臼だということは一番よく分かっていました。 臼はひとしきり「すんすん」と叫びながら そこらじゅうをゴロゴロと転げまわりました。 そして、ようやくおちつくと、しょんぼり肩を落として小さくうなずきました。 「……うん。」
蟹は、臼のそばに駆け寄ると 小さなハサミでうすの端っこをつまみました。
「よし。臼さん。 きみは道端に落っこちていたから、今、ボクが拾ったよ。 君は、今からボクのものだ。いいね。 一緒に、猿を退治に行こう♪」
「うんうんうん!うぅぅぅ〜ん♪」
臼はがくんがくんうなずくと、大喜びで蟹を持ち上げて 臼のくぼみの中に、優しく蟹を乗せてあげました。 続いて栗も、乱暴に放りこまれました。 くりきんとんにされそうな、惨めな気分でした。 蜂は、いち早く空へ飛んで逃げました。
蟹は、誰かに所有されていないと寂しくてしかたがない臼を なんとなく理解できる気がしました。 ちょっと不思議なきぶんでした。
「よし、みんな。猿蟹合戦に、いざ、出陣!!!」
「うんうんうん!うぅぅぅ〜ん♪」
こうして、蟹たちは元気に山田さん宅へと進軍を開始しましたとさ。
猿蟹合戦:第3話 『不法投棄、そして、決戦へ…』 完
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(誠にお手数ですが、連き物ですので 前号コラム、『猿蟹合戦・第1話』からお読みください。)
「おやおや蟹さん。 そんなに真っ赤に泣きはらして、一体どうしたんだい?」
ちょうどお花畑の真ん中あたりで 泣き歩く蟹に声をかけてきたのは、ミツバチでした。 蟹は涙を必死でこらえながら、今までのことを語りました。
「…でね。ヒック。お猿のやつはね…ヒック 自分は山田さんちの鎖につながれているくせして…ヒック 自由なボクのことを、野良蟹呼ばわりしたんだよ! 野良蟹だよ!よりによって!ヒック ボクは、ボクは絶対に、おサルのヤツを許さないんだからぁ! うわぁぁぁん!」
最後はまたまた大泣きに泣き出してしまいました。 まだまだ幼い蟹だから仕方がありません。 しかし、そんな幼きものにも、ミツバチは容赦なく指摘しました。
「つまり…君はせっかく自由蟹であるにもかかわらず 「野良」というたった一言にこだわって ちっぽけな復讐心で我が身をしばろうと、そう思っているわけだね。」
一瞬、蟹の目の前が真っ暗になりました。 ミツバチの一言は、残酷過ぎるほど冷静に、真実を射ぬいていました。 それは冷水を頭から浴びせられるほどのショックでした。 首があったらうなだれていたことでしょう。 せっかくなので、ハサミをうなだれて雰囲気を出しました。 それでも、どうしても 幼い蟹は、怒りをしずめることができませんでした。
「だって…だって…ヒック お猿のヤツが、野良だなんて言うのはひどすぎるから… あんまり頭来たから…ヒック」
「いやいや。君が納得して復讐を誓うのなら ボクはとやかく言わないよ。 君のちっぽけなプライドを守るために、復讐を心に誓うのだって それも君の自由なんだから。立派な自由だよ。 よし!僕が君の仲間になって手助けをしてあげよう! きみのちっぽけなプライドに、乾杯!」
こうして、なぜかミツバチが仲間になりました。 蟹はものすごく釈然としないものを感じながらも かろうじて、ミツバチにお礼を言いました。ちゃんと、上手に言えました。 親のしつけが良かったのでしょう。
こうして二人そろって森の小道を進んでいると ちょうど大きな栗の木の下で、いがぐりが声をかけてきました。
「おやおや蟹さん。こんにちわ。 そんなに真っ赤に泣きはらして、どうしたんだい? そこのブンブンと小うるさいヤツに、ひどいイヤミでも言われたのかい?」
いきなり話しかけられて、蟹が一瞬びっくりしていると すかさずミツバチがやり返しました。
「やぁやぁ。地ベタからなにやら声がすると思ったら 栗さんじゃないですか。こんにちわ。 今日も、イガイガの中に引きこもって ただ朽ち果てるのを待っているんですね。なんて忍耐強い。 さすがはいがぐりさん。」
そしたら、いがぐりだって黙ってはいません。
「プッ…。佐藤養蜂場。」
一瞬、ミツバチの表情が凍りつきました。 すかさずいがぐりはたたみかけてきました。
「ねぇねぇ蟹さん。さっき君達が通ってきたお花畑あるでしょ。 あそこは佐藤さんって人のお花畑なんだよ。 で、佐藤さんはなんでお花畑なんか作ってるのかと言うと そこから蜂蜜を集めるためなんだ。 でね。この自由で偉大なミツバチ君は 佐藤さんに飼いならされて、日がな一日、佐藤さんのためだけに 花から花へとミツを集めてまわる、働き者なんだよ。プフフッ」
するとハチだって黙ってはいません。
「しょせん地べたに転がってイガの中に引きこもっているだけの君に ボクの自由をとやかく言われる筋合いはないねぇ。 君に何が見えるというんだい。 わからずやで偏屈な君に分かるように説明してあげるよ。 いいかい。ボクと佐藤さんはパートナーなんだよ。 彼は花は育てられても蜜を取ることはできない。 だから僕達がミツを集めて、彼の取り分を少し分けてあげるんだよ。 僕達は協力関係にあるんだよ。パートナー。 お互いの能力をギブアンドテイクしてるわけだよ。 引きこもりで社交性ゼロの君には、ちょっと理解できないかもね。」
栗もすかさずやり返します。
「そうそう、君と佐藤さんはパートナーなんだよね。 佐藤さんが殺虫スプレーを手にするまではね。」
こうなれば売り言葉に買い言葉です。
「な、なにおう!もう一度言ってみろ!この引きこもりやろう!」
「あぁ、なんどでもいってあげるよ。飼いならされた自由バチ君。 だいたい。ボクの命はこのいがぐりひとつではないんだよ。 この栗の大木全体で、一つの命。 たとえこの実ひとつが鳥についばまれようと、人に採られようと はては朽ち果て土に還ろうとも、それはボク自身の本望だよ。 そうやって自然の中で大地と一体になりながら ボクの命はずっとずっとめぐりめぐっていくんだから。 大地と共に、ボクの命とボクの自由とがあるんだから。 所詮は佐藤さんのお花畑の中でしか自由を語れない君のものさしで ぼくの自由はとうてい理解できないだろうね。」
「ほほぉぉぅ。さすがに地べたに転がっている以外にすることもないから 屁理屈だけはいっちょまえだね。 それなら地べたに転がって自由を謳歌するがいいさ。 ぼくが自由に大空を飛びまわる姿を、よだれを垂らして眺めてるがいい。」
「あぁ、そうさせてもらうよ。 きみが馬車馬のようにあくせくかき集めた蜂蜜を 君の素敵なパートナー佐藤さんが 根こそぎ持ってくところを眺めるのがボクの楽しみなんだ。」
「な、なにおう!このいがぐりヤロウ!」
……… 言っていることのスケールは大きいのに 微塵の感動も呼び起こさない、この惨めな言い争いが 昔話には全く馴染まないと蟹は思いました。 「おまえのかぁちゃんでべそ」とか言い出す前に この不毛な争いをさっさと終わらせるべく、蟹は間に割って入りました。
「栗さん。蜂さん。もう、ボクのために争うのはやめてくれよ!」
「いや、君は全く眼中に入ってないから!」(蜂・栗、同時で。)
見事な返り討ちでした。 史上まれに見る返り討ちでした。 しかし、この全く空気を読まない無謀な仲裁が 蜂と栗を、ほんのわずか落ち着かせることができました。 しばしの沈黙のあと、くりがため息をひとつついて言いました。
「そうだね。蟹さん。君の言う通り、言い争いをしている場合じゃないね。 君のことは、さっき聞くとはなしに聞かせてもらったよ。 猿に復讐をするんだろ?それがいい事か悪いことかはわからないけど 君が自由だと言うのなら 君が誰かに飼われて従属しているわけではないのなら 君は弱肉強食と言う自然の掟にさらされなくてはいけないんだ。 猿は、君を食べようとしているんだろう? 弱者の君がそれと戦うには、仲間はたくさんいたほうがいい。」
我が意を得たり! 蟹はがくんがくんうなずきました。 そう、己の命を守るために、猿と戦わなくてはならないのだ! なんとなく戦う目的と言うか言い訳のようなものができて 蟹はとっても勢いづきました。 栗に、一生懸命お礼をいいました。おりこうさんに言えました。 こうして、蟹、蜂、栗の三国同盟が成立しました。 結束は余り強いとは言えず スケールも非常に小さい同盟でした。 それでも、幼い蟹にとってはとっても心強い、仲間達でした…。
猿蟹合戦・第2話『同盟結成』 完
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明けてめでたい。 いや、もとい。 明けましておめでとうございます。 年明け早々、久方ぶりの連載もので更新します。 しかも久方ぶりの昔話シリーズなので心して読むように。 嘘です。暖かい目で読んでください。 おちが弱くてごめんなさい。 (↑先に謝っておきます。)
ある晴れた冬の日… 大きなおにぎりを両手ではさんで 蟹はニコニコ顔で家路を急いでおりました。 すると、柿の木の枝に腰掛けていた猿が、蟹に声をかけました。
「やぁやぁ蟹さん。おいしそうなおにぎりをもってるね。 ボクの持っている柿の種と交換してくれないかい?」
すると蟹は答えました。
「柿の種は美味しくないからイヤ。」
猿は慌てて説明しました。
「違うよ蟹さん。これは食べ物じゃないんんだ。 君がコレを土に植えると、それが木になり やがてはたくさんの柿の実をつけるんだよ。」
しばし考えて、それでも蟹はこう言いました。
「やっぱりダメ。だって、桃栗3年、柿八年っていうでしょ。 柿が実る頃には、ボク死んでるから。」
それでも猿は必死に食い下がります。
「それでも、ほら 君が鈴なりの柿の木の下で臨終を迎えるときに 子供や孫達が枕もとで「父よあなたは偉かった」って…」
「そういう長期的なビジョンで感動を訴えられても 子供の僕には実感湧かないから。」
蟹は言下に拒否しました。 さすがに猿もあきらめ顔でこういいました。
「そうか。わかった。蟹さんのいうとおりだね。 それじゃぁ、こうしよう。 ねぇ、おにぎりさん。おにぎりさん。 君を挟んでいるその蟹さんを、ボクの柿の種と交換しないかい? ボクは蟹が大好物なんだ。」
これにはさすがに蟹もびっくりしました。
「ちょ、ちょっと、勝手な取引をしないでくれよ! ボクがこのおにぎりの所有者であって おにぎりがボクの所有者ではないんだから!」
すると猿は小首をかしげて言いました。
「それじゃぁ…君を食べるには誰の許可を得ればいいんだい?」
蟹は猛然と言い立てました。
「そ、そんな、そんな許可は誰だってできやしない! ボクの命は、ボクのものなんだ! それじゃ聞くけど、お猿さん。君は一体、誰の物だって言うんだ!」
すると猿は涼しい顔でいいました。
「山田さん。」 ……… 「へっ?」
猿はもう一度繰り返しました。
「だから山田さん。ボクは山田さんちの飼い猿だから。 あっ、でもねぇ。ボクの命が誰のものかと言われれば… 山田さんというよりも、むしろお山のキー子ちゃんかな。 裏山に住んでるメス猿のキー子ちゃんはねぇ、村一番の美人なんだ。 彼女のためなら、ボクは死ねる!あぁ、本気で死ねる! ボクは彼女の、恋の奴隷さ…。なんちゃって。 まぁ、そんなことはさておき。 つまり蟹さんは…、誰にも飼われていないわけだ。 要するに野良なんだね。」 ……… 蟹の目の前が、一瞬、暗くなりました。 彼の頭の中を、たった一言が駆け巡りました。
野良…野良…野良…(リフレイン)
そんな蟹に、猿は追い討ちをかけるようにこういいました。
「だって、ほら。誰の所有物でもないというのなら ボクが君を食べたって、法的にはなんの問題もないものね。 君はこうして陸に上がって歩いているけど 法的には水揚げ前の蟹とおんなじなんだよ。 禁漁期間さえ解禁されれば、誰が君を採っても文句は言われない。 つまり、君は野良さ。野良蟹。 君は誰かのために命を捨てることも 恋の鎖に我が身を縛られることも拒否した 孤独で惨めな野良蟹なんだね。」
見る見る蟹の顔が赤黒くかわっていきましたが べつに茹であがったわけではありません。 怒りが、彼の魂の奥底から轟然と湧き上がる怒りが 彼の全身を真っ赤に染め上げたのです。(注:食べごろではありません) 蟹は決然と猿をにらみつけて、こう、言い放ちました。
「ボクは野良なんかじゃない!ボクは自由なんだ! 鎖に縛られて生きている君になんか分かるもんか! わかってたまるか! ボクは…ボクはこの屈辱を決して忘れやしない! 君を絶対に許さない!必ずや、復讐してやるぅぅ!!!」
やおら手にしていたおにぎりを猿めがけて思いっきり投げつけ 蟹は、振りかえることなく一目散に走り去りました。 どれだけ走っても、涙が止まりませんでした。 悔しくて、悔しくて、悔しくて… 蟹は、日が暮れるまで野山を横歩きで走りました。横走りました。 日本語としては微妙でした。
そして猿は 地面に落ちたおにぎりを美味しそうに拾い食いしました。 食べ終わってから 「そうだ、キー子ちゃんにも半分わけて上げれば良かった…」 しかし、時すでに遅し。 彼の心では、満腹感と罪悪感がせめぎあいました。 しばし懊悩する猿。 しかし、かれはすぐに立ち直り、地面にそっと柿の種を植えました。
「あぁ、愛するキー子よ。 君への愛は8年の時を経て 鈴なりの柿の実となって君へと届くだろう。」
こうして自分なりに折り合いをつけた猿は 来る日も来る日も、柿の木を大切に育てつづけましたとさ。 めでたし、めでたし。(ほんとか?)
猿蟹合戦・第一話『勃発』 完
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