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  社会の窓 2002/02/08(金)



先日、JR川崎駅のホームで見知らぬおじさんから話し掛けられた。

「今日は、一段と寒いですねぇ〜。」

朝の6時半のことである。
結構早い時間といえるかもしれないが
私にとってはごく普通の通勤時間。
すでにホームは、電車待ちで並ぶ4、5人の列ができるくらいで
その最前列に私とそのおじさんはいた。

そして、おじさんは、いかにも寒そうに手をこすり合わせながら
「今日は寒いですねぇ〜」
と、話し掛けてきたのである。

はっきり言って、むしろ暖かい日であった。
日中は東京で14℃近くまで気温があがる予報であり
朝6時の時点でも、すでに6℃を越えていた。
例年で言うと3月上旬頃の気温らしい。

しかし、である。

これは、言うまでもなく、社交辞令であろう。
なにも結構人がいる朝のホームで
見るからにナウなヤングの私(死語。ジュラ紀あたりか)
をつかまえて、50がらみのおじさんが
その日の寒さを真剣に語ろうとはすまい。
ほんの朝のご挨拶がわりに
軽くコミュニケーションをとろうとしたまでなのである。
そして、冬の朝のご挨拶つといえば
「今日は寒いですねぇ」が、定番中の定番なのだ。

さらに、少々うがった見方をすれば
親子ほど年の離れた若者(私)を相手に
“世代を超えたコミュニケーション”を求めたのかもしれない。
家では愛娘に「キタナイ、クサイ、ウザイ」などと陰口をたたかれ
しかも面と向かっては口も聞いてもらえず
挙句の果てに洗濯物だって一緒に洗ってはもらえないほど
徹底的な迫害を受けているのだとしたら…。
「お父さんだって、最近の若者と小粋なトークができるんだ!」
と、朝っぱらから意気込んでしまうのも無理はない。

あるいは逆に
朝といえば判で押したように不機嫌になる
いまどきの低血圧で自分勝手な若造相手に
「朝の小ジャレた社交辞令ってやつは、
 君達にはちょ〜っと無理だったかな〜」
(↑ちびまるこちゃんの花輪君風)
前髪をふぁっさーっとかきあげながら
大人の余裕を見せたかったのかもしれない。

まぁ、いずれにせよ。
当方、迎撃の用意あり。である。


私、こう見えても朝は滅法強い。
朝の5時半に、“目覚し時計よりも”早く起きてから
すでに1時間が経過しているのだ。
脳内はとっくに冴え渡っているし、低血圧では決してない。
しかも駅まで歩く道すがら
お散歩中のワンちゃんをうっとり眺めたり
仕事を終えた水商売風のおねぇちゃんをうっとり眺めたりと
もう、気分は爽快である!
(そして、夜になってこんな文章を書いている自分に
 どっと疲れを感じるのである。)
まぁ、とにかく。
いわば磐石の態勢で待ちうける私にとって
たとえ見ず知らずのおじさんとの“社交辞令的ご挨拶”であっても
なんら恐れるに値しないのだ。

ここはひとつ。
英国紳士の生まれ変わりと言われたこの犬司。
持ち前の英国紳士っぷりをいかんなく発揮して
社交辞令道、ここに極まれり!
というところを見せてやろうじゃありませんか。
…………
(分かっている。気にするな。
 とりあえず、最後まで書かせてくれ。)


で、犬司、答えて曰く
「そうですね。
 でも2、3日前と比べると、幾分寒さも和らいで来ましたね。
 今日は、3月上旬くらいの気温になるそうですよ。」

まぁ、おおむね合格点でしょう。
単に「そうですね。寒いですね。」だけでは
すぐに話が終わってしまいます。
これでは、寒すぎ。
冬の朝、「寒さ」が話題にのぼったときは
かならず「暖かい」方向に話題が伸びるよう心がけるのが
いわば紳士のたしなみ。
さらに今朝仕入れたてほやほやの気象情報を
さりげなくおりこんでおくのも
やはり紳士のたしなみです。
こうしておけば、もう少し、話に繋がりが出てきます。

で、それに対しておじさん、答えて曰く
「え?そうですか?…う〜ん。
 でも、やっぱ、寒いですよ。」

おや?
英国紳士のルールでは
ここは「寒さ」にこだわるところではないはずだが…。
これでは話が振り出しに戻ってしまう。
ちっとも会話が弾まないではないか。
なんか、様子がおかしいな。
………

ん?
そうか。分かった。

このおっさん。ただの寒がりだ!

いやいや、大失敗。
私が小粋な英国紳士を気取って
すがすがしい朝のコミュニケーションをもくろんでいたのは
ぢつは、さわやかダンディーなナイスミドルではなく
ただの「寒がりのおっさん」でした。
これは参った。
「英国紳士」VS「寒がりのおっさん」では
もはや異種格闘技戦である。
社交辞令のルールは適用されない。
この場合、私のとりうる対応はおよそ次の三つ。

1.「そうですね。さすがに冬ですから、朝は寒いいですなぁ。」
 と、さわやかに微笑んで、会話を終える。
 最後まで英国紳士的な対応を貫くが
 「ただの寒がり」には無論通用しない。
 “勝負に勝って試合に負ける”といったところか。

2.「いや、絶対に暖かいって!マジで!」と一歩も引かぬ構えで
 泥仕合に持ちこむ。
 電車2、3本乗り過ごす覚悟で長期戦を展開し
 先に折れたほうが負け。
 おそらく「寒がり」のが先に折れるだろう。寒いから。

3.「なるほど。それはなによりだ。」と、あいまいに微笑む。
 なにがどう“なにより”なのかは、全く意味不明。
 意味不明なままお茶を濁す
 いわゆるジャパニーズ・スタンダードなやりかた。
 まぁ、しいて言えば、引き分けか。

いまさら紳士を気取っても、所詮相手は「ただの寒がり」。
負けるのは悔しいし、1番はやはり却下。
しかし、勝負にこだわって2番を選ぶのは、やはりリスクが大きすぎ。
繰り返すが、相手は所詮「ただの寒がり」なのだ。
朝の電車を乗り過ごしてまで、勝ちに行く勝負ではない。
では、いっそ3番か?
しかし3番のやり方では、引き分けというより
むしろ試合放棄ではなかろうか…。

などと対応に困り悩んでいると…
ふと。
まさに、ふと、
トンでもないものが目に入った。


このおっさん。社会の窓が全開だ。


そう、このおっさん。
いかにも紳士然とした濃いグレーのスーツ姿にもかかわらず
ズボンの前のファスナーは豪快に開け放たれているのだ。
しかも。
そこからYシャツのすそがはみ出している。
って言うか、まさに天を衝いてそびえたっている。
ズボンをはくときにうっかり閉め忘れただけでは
なかなか、こうはならないだろう。
もしそうなら、家から駅まで歩く間にどれほどたなびいていたことか。
歩くたびにパタパタ音がしたはずである。
まるでタラちゃんのように…。
しかし、そうではないだろう。
おそらく、これは
つい先ほど、駅のトイレで用を足し
ズボンの中に“あんちきしょう”をしまいこむのと引き換えに
見事引きずり出されたYシャツのなれのはてである。
でなければ、Yシャツはあれほどそそり立ちはすまい。
むしろ、しまいこむ前の“あんちきしょう”を彷彿とさせるような
Yシャツの“そそり立ちっぷり”は
彼のせめてもの見栄なのかもしれない。
(いや、それはない。)

とにかく。
この「寒がりのおっさん」。
「寒がりなダメオヤジ」に格下げです。
「英国紳士」VS「寒がりダメオヤジ」。
異種格闘技どころの騒ぎではなくなりました。
しかも何が気まずいって
彼自身よりも、私の方が早く
その異常事態に気がついてしまったのだ。

…困った。

もちろん。
「前が開いてますよ」と教えてあげればいいのは分かっている。
それも相手に聞こえるギリギリいっぱいの小声で
自然に、かつ、努めて事務的に…。
しかし、である。
普通に指摘するには
あまりにもYシャツがそそり立ちすぎているのだ!!
ヤツは、ありとあらゆる干渉を一切寄せつけずに
まさに君臨しているのである!!
それをおして、あえて股間のYシャツを指摘する勇気は
残念ながら持ち合わせてはいない。

ちなみに、読者諸君。
今すぐ、ズボンをはいてみてくれ。
で、そのファスナーのところから
中の衣類を豪快に引っ張り出してみてもらいたい。
ズボンの前に7、8センチほどそそり立つ具合に…。
……
どうだろうか?
見るものを圧倒する迫力はないだろうか?
周囲を威圧するような存在感はないだろうか?

少なくとも朝のJR川崎駅のホームで直面すれば
「社会の窓」を突き破ってそびえるYシャツには
英国紳士気取りのはみ出しコラムニストなど
圧倒するほどの迫力があるのだ。

もはや、完敗である。
「英国紳士」VS「ダメオヤジ(with股間にそそり立ちYシャツ)」は
まったく勝負にすらなっていないはずなのだが
圧倒的にダメオヤジに軍配が上がるのだ。
これは、理屈じゃない。
バトルフィールドが全く違うにもかかわらず
100回戦って100回「ダメオヤジ」が勝つのだ。
でも、それはかまわない。
そもそも、私の求める戦いは
そこには微塵も存在しないのだから。



負けを認めて押し黙る私の前で
ようやく「ダメオヤジ」は自分の股間の異常に気がついた。
すばやく私の方を見る。
もちろん、私は「全く見ていないふりをして」あらぬ方に目をそらす。
すると何を思ったかこのオヤジ…

「ありゃ?こりゃぁ。すんごいことになってる!」

自分でツッコんでどうする!!しかも大声で!!
私どころか周囲の人まで、いやでも彼に注目する。
いや、彼の「すんごいことになっている」あの部分に…。
やおら彼は丁寧にYシャツをたたんでしまいながら。

「なぁるほど。どうりで、今日は寒かったわけだ。
 よしっ、これで大丈夫。
 おにぃさん。やっぱり、今日は暖かいねぇ〜」


この時点でいきなり話を振られて周囲の注目を集めた私…
一体どのような答えを返すべきか
知っている方はぜひとも教えてください。

それと
この時点でいきなり私に話を振ってきたこの「ダメオヤジ」を
何とかして訴える法的根拠をご存知の方
ぜひとも教えてください。

ちなみに、先日の私は
ただ、あいまいに微笑むのが精一杯でした。



今日も、何を書いているんだか。
ではでは、また。






 (しょういち #79D/WHSg URL)
「ありゃ?こりゃぁ。すんごいことになってる!」こんな対応するヒト初めて知りました(@@@。島田伸介の友人は、シートベルトの検問でつかまりそうになり、「うわぁ、ほんまや!さっきまでベルト締めとったのに、何で外れたんやろ?」で突破しようとしたそうです。ちなみにテレビでは、飲酒検問で「ぁあ、そっか。さっきお酒飲んだのすっかり忘れて車に乗ってしまいましたわぁ」とのたまう関西のおばさん見たことあります。なお、文章に勢いつけるため自爆連発して自分が飛んでいくのが癖ですが、当分控えることにします(@@。
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 (しょういち #79D/WHSg URL)
「冷え性は下半身からきますからね〜」
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 (masako #79D/WHSg URL)
犬司さん、もしかして早朝からからかわれたん
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 (masako #79D/WHSg URL)
(書き終える前に飛ばしてしまいました・・・@:@。。)だからその、ほら、可愛い男の子だったからついいじめちゃったとか。。。
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 (犬司 #79D/WHSg URL)
早速のコメントありがとうございます。題名をすっかり書き忘れて、今、慌てて書きこんできました。確かに冷え性は下半身から来るのですが…それは足もとから来るといういみでしょう。「あの部分」から来るわけではありません。それと…やっぱ、可愛いですかねぇ。ボクって。ウフッ。(ぜんぜん可愛くありません。)
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 (くみ #79D/WHSg URL)
めちゃめちゃ基礎体温が高いので、冬になると友達の手を温めまくってます。(女子高校生と手繋ぎ放題。うらやましいだろ?(*゚∀゚)ニヤッ
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 (KARASU #79D/WHSg URL)
先手必勝ですね。暑さ寒さも窓しだい!?
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 (犬司 #79D/WHSg URL)
↑暑さ寒さも窓次第…だから、いくら暑くっても「社会の窓」だけは開けちゃダメだって!(笑。あつ、それと私も平熱が高いほうなんですが、だれか私の手につつまれてあったまりたい人、連絡お待ちしております。
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 (masako #79D/WHSg URL)
めちゃめちゃ平熱低いから、あったかい人羨ましい♪包まれた〜い♪こたつでもいぃ(笑 とりあえず冬は手袋が必需品デス。
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