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(すみません。またしても連載ものになりました。 前号コラムを最初にお読みください。)
こうして、キリスとギリスの2匹は 音楽を聞かせてあげるかわりに 冬を過ごすための暖かな住まいとエサとを手に入れるべく 人間達の住む人里へとおりてきました。
『ところで…ギリスよ。』
「んっ?なんだい?キリス兄さん。」
『人間達の“すみか”がたくさん見えてきたわけだが… いったい、どの人間とプロ契約を結ぶんだ?』
「それは…やっぱ優しくって思いやりのある人間と…」
『そうか。で、そういう人間は、どこのウチに住んでるヤツだ?』
「そ、それは、家を見ただけでは分からないよ。」
『それじゃぁ、お前、どうすんだよ。 一件一件家を回って、「お宅は優しいですか?」とか 聞いてまわるつもりか?』
「そんなの無理だよ!できるわけないだろ!言葉通じないし。」
『おいおい。お前は相変わらず計画性ってもんがないね。 事前に下調べを済ませておくとか 先方球団のオファーをとっておくとか すでにある程度の条件を提示しておくとか そういうこと、なんにもしてないわけ? それで俺様にプロ化を進めるとは… お前、俺の代理人としての意識あるの?』
「だれが代理人だよ!だいたいねぇ。 兄さんに“計画性”なんて言葉使って欲しくないよ。 夏の間、何の計画性もなく遊んで暮らしていたから 今、冬になってこうして路頭に迷っているんじゃないか!」
『あぁ、嘆かわしき弟よ… お前の目は節穴か?作り物か?視力はあるのか? 一体兄の何を見つめていたのだ弟よ。いいか、よく聞け。 この偉大な兄は “冬になればアリが何とかしてくれる” という遠大な計画のもとに、夏を精一杯楽しんで過ごしたのだよ。 もしも、こういう計画性を持たずに夏を働いて過ごしたとすると どうなったと思う? 冬になったら、俺達もアリも食料があふれかえってしまうんだよ。 過剰生産だよ、過剰生産。 すると翌年はすぐに減反政策だよ。 な?分かるか?このあたりの仕組みが…』
「ちっとも分からないけど それはアリとかキリギリスとかには全く無関係の 屁理屈だということは分かったよ。」
『お前は相変わらずかわいくないヤツだねぇ。 兄の言うことを素直に聞かない弟なんて… 兄は大嫌いだぞ!』
「ボクのいうことを聞いてくれるとかくれないとかにかかわらず ボクは兄さんみたいなキリギリスは嫌いだよ。」
『あっ!お前!今すっごくかわいらしくないことゆったぞ! あ〜ぁ、俺、すごく凹んだぞ。ものすごく凹んだ。 むしろくぼんだよ。 多分、ひっくりかえったら、すごくでっぱってるぞ! ねぇ、見たい?見たい?見せようか?』
「やまてくれよ! 何が悲しくて、兄さんの“でっぱってるところ”を 見なくちゃいけないんだよ!」
『そうだな。そんな下らんことをやっとる場合ぢゃない。 どうも…あれだな。 お前といると調子がくるうな。』
「………」
『さてと。 それじゃぁ…とりあえず… 外から見てるだけじゃ 優しい人間かどうか分からんわけだし ……よしっ! とりあえず大きな家を目指そう!』
「へっ?なんでっ?」
『なんでって… その方がカネ持ってそうだからじゃないか。 裕福な家にいけば それだけいいエサ食べさせてもらえそうだろ。』
「あっ…そ、そうか。なぁんだ。兄さん。 ちゃんとしたこと考えられるんじゃん!」
『お…お前ねぇ。 まぁ、いい。 とりあえず…だ。 う〜ん…おっ!あそこ! あの白くてでっかい家!』
「あっ、ホンとだ。でっかい家! すっげぇ、でっかい車が止まってるよ!」
『な。あれ、多分“ベンチ”っていう車だぜ。』
「ベンチ?」
『そう、“メルセ・デシ・ベンチ”。超高級車だよ。 ベンチって言うくらいだから きっと座りごこちとかも最高なんだろうな。 あの車一台で…そうだな。きゅうり二万本くらい買えるな。』
「に…二万本っ!!!!!!」
『あぁ、それくらいの高級車だ。 あんなの持ってるくらいのウチだから きっと毎晩のように“シタビラメのムニエル”とか食ってるな。』
「シ…シタビラベラ…?なにそれ?」
『だから“シタビロベラのムニエラ”だよ。』
「あれ?さっきとなんか違うような…」
『うるさい。いちいち小さいこと気にするな。 とにかく、すごく高級料理なの。すっごくうまいんだぜ!』
「へぇ〜。兄さん、よく知ってるんだねぇ。 でさ。どんな味がするの?」
『そうだなぁ…それはもう…あれだな。 お前が今まで食べた中で 一番おいしいかった味を想像してごらん。』
「うんとね、うんとね、う〜ん……。 うん。想像した!」
『その5倍はうまい。』
「なんだよそれ!全然わかんないよ!」
『分かる分からないじゃないんだよ。 想像するんだよ。心で感じるんだ! 頭で理解するんじゃないんだ!心だ!』
「だから無理だよ! だってさ。だってさ。 今までボクが食べてきた一番おいしいものよりも さらに5倍もおいしい味が想像できるくらいなら なんだかボクの現実って すごく5分の一っぽいじゃん。 ボクの人生5分の一って感じじゃん!悲しいじゃん!」
『おっ、それ、おもしろい! うまいこと言うねぇ。 よし、きょうからお前のことを“5分の一ギリス”と呼ぼう。 あるいは“ギリス5分の一”でもいい。 どっちがイイ?』
「どっちもイヤだよ!」
『なんでさ。すごくかっこいいと思うぞ。 5分の一の縮尺で、すごく一生懸命に生きてる人生。 とってもリーズナブルで好感が持てるぞ。』
「やめてくれよ。情けない。」
『そうかなぁ…。 まぁ、いいか。とにかく。 あの家にのりこんで、見事プロ契約を結ぶぞ! きっとあれほど裕福な家だから “ハウスもののキュウリ”とか 毎晩食わせてくれるはずだ!』
「ハ…ハウスもの?」
『そうさ。 お前、キュウリっていえば たいてい、里山で自然に生えてるやつしか食ったことないだろ。』
「うん。もちろん。でも、キュウリってすごくおいしいよ。」
『ハウスものってのは、なぁ。 そんなもんんじゃないんだ。 人間ってさ。畑に半透明の小屋みたいのつくって その中でキュウリ作ってんだよ。 でさ、その半透明の中は一年中常夏なんだよ。 暖かくって太陽の光を燦燦と浴びてさ。 肥料とか栄養とかもちゃんと与えられてるから 全然味も大きさもケタ違いさ。』
「へぇ。そうなんだ。」
『その半透明のことを、“ハウス”って呼ぶんだ。 そこで、カレー・ルウとかと一緒に、キュウリも作ってる。』
「カレー・ルウ?」
『あぁ、そう。ハウスと言えばカレーだよ。 なんか、茶色くて変な食いもんだ。 でも、ヒデキが感激するくらいうまいらしい。』
「だ、誰?その、ヒデキって?」
『いや、その説明は長くなるからよそう。 とにかく、味にうるさいギャラン・ドゥなヤツさ。』
「ギャ…?」
『それも後回しだ。ややこしいから。 それくらいハウスもののキュウリは絶品ってことさ。 そうだなぁ、お前が今まで食ったキュウリの中で 一番おいしかったキュウリを想像してごらん?』
「どうせまた…その5倍はうまい。とか言うんだろ。」
『7倍だ。』
「えっ…7倍!たかが、キュウリで? ……… 俺、キュウリのことも、7分の一しか知らなかったのかよ。 なんだか、おれ、すごくくよくよしてきたよ。」
『そうか、それはよかった。』
「なぐさめてくれよ!」
『いや、その必要はない!』
「決めんなよ!勝手に!」
『とにかくだ。ゆくぞ!あの裕福な家庭に! いざ、出陣!!』
こうして、キリスとギリスの2匹は ヒデキも感激のハウスものキュウリを目指して 里一番のお金持ち(タナカさん宅)へと歩き始めました。 大きな希望と、ほのかな不安を胸に抱いて…
2匹の小さな勇者の物語も、いよいよ、佳境へ。
(次号へ続く…)
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